昨日の日経新聞朝刊に、熊本県内に拠点を持つ中小規模の製造業へ聞き取り調査をしたところ、6割が事業継続計画(BCP)を策定していたという記事が掲載されていました。
これは内閣府の調査による全国水準や、私自身の実務を通じた印象よりもかなり高い水準で、まさに10年前の熊本地震の教訓が生きていると言ってよいと思います。
その一方で、私がこの記事を読んで気になったのは、策定率よりもその後に書かれていた3つの事例です(以下、記事より一部抜粋)。
・飲料メーカーのハイコムウォーター(熊本市)は地震発生時、工場で指揮をとる工場長が不在だった。BCPには明記されていなかったが、工場長は電話で現場に指示を出した。
・船舶の製造・修理を手がける熊本ドック(熊本県八代市)は八代市の工場が被害を受け、稼働を1週間停止した。避難経路などを記したBCPは日本語のみだったため、外国人労働者は日本人が避難所まで案内した。
・プラスチックメーカーのニフコ熊本(熊本県菊池市)はBCPを策定していたものの「被害が小規模だったため、避難の判断が各自バラバラになってしまった。今後はより細かい動きも盛り込みたい」とした。
いずれも、BCPが「なかった」から起きた問題ではありません。BCPは「あった」にもかかわらず、想定していた状況と現実に乖離が生じた途端、BCPが思うように機能しなくなったという話です。
つまり、BCPの本当の勝負どころは、策定以上にその運用にあります。
時間やコストをかけてBCPを策定しても、いざ運用しようとすると機能しない。
これは、製造現場に限った話ではありません。
私は、2026年4月号の「企業実務」(日本実業出版社)に、「経理部門のためのBCP(事業継続計画)策定ガイド」というテーマで寄稿しました。
そこでも書いたとおり、災害時に企業の存続を左右するのは、キャッシュが回るか、支払いが継続できるかです。そして、この中核を担うのが経理部門です。
工場が復旧しても、支払いが止まれば取引先は離れていきます。給与の支払いが遅れると、従業員は生活に困窮し、転職する人も出てくるでしょう。
経理業務は、製造現場以上に属人化しやすい領域です。銀行印はどこにあるのか、ネットバンキングの承認権限は誰が持っているのか、支払データは誰が作れるのか。
「あの人しか知らない」という状態の中小企業は、決して珍しくありません。
記事にもあるように、内閣府の調査では、リスクへの対応を進めるうえでの課題として「自社従業員への取り組みの浸透」が最も多く挙がっています。策定した人だけが内容を知っているという状態は、BCPが存在しないのと変わらないのです。
経営者の方に一度考えていただきたいのは、「自社にBCPはあるか」ではなく、「経理担当者が突然出社できなくなったとき、期限内に支払いを実行できるか」という問いです。
もちろん全社的なBCPの策定が理想ですが、それには多大な時間や業務負担を強いることになります。
非常事態にも会社を存続させる、従業員の雇用を維持するという観点からは、支払いを継続させる、キャッシュを枯渇させないという一番肝心なところ、つまり経理部門のBCP策定・運用から始めてみてはいかがでしょうか。

