IFRS導入にはどの程度の期間が必要なのか?

私は2015年に出版した書籍に「IFRS導入プロジェクトのスタートからIFRS移行日まで3年から5年程度かかる(つまり、スタートからIFRS報告日までは5年から7年程度は見ておく必要がある)」と書きました。

当時はまだ先行開示事例も少なく、適用企業も時価総額数千億から1兆円超と大規模中心だったことから、対象となる論点や監査法人との交渉頻度も多く、上記程度の期間は想定しておく必要がありました。

もっとも、私が参画している近年の案件では、IFRS導入に係るノウハウが蓄積されてきたことや、ゴール逆算方式により無駄な作業は極力排除することで、比較的短期での導入が可能になってきた印象を受けます。

それでも経営者の方に「報告日まで1年で進めたいので力を貸してほしい」と言われると、「経理部をはじめ、関与者の皆様に1年でやり切る覚悟はありますか」と問いかけます。

もちろんプロジェクトはこちらで主導しますし、依頼に応じて影響額の算定なども行います。

もっとも、IFRSでは、(誤解を恐れずにいえば)会社の好きな財務諸表の表示形式を採用し、注記などの開示も書きたいことを自由に書くことができます。

この「自由」は、与えられるほど考えるべきことが増えます

「この開示項目は書くべきか、省略するか」「もし書くなら、どの程度のボリュームで記載するか」。。。

有価証券報告書に記載される内容は会社の主張ですから、私から「助言」や「提案」はしますが、最終的な「決断」は経営者にしていただくしかありません。

経営者が決断した方針をもとに、現場の担当者が文章を作成しては修正するを繰り返して、ようやく開示を含めた有価証券報告書が完成します。

ですので、「決算期間中だから今はIFRS対応が難しい」という声が現場担当者から聞こえてくるようなら、1年というような短期間での導入は諦めたほうがいいでしょう(だって、1年といってもそのうちの半分は月次や四半期、期末の決算対応があるため、会社側の担当者はIFRS導入にほとんど関与できませんよ。。。)

実際のプロジェクト期間の長短は様々な要因に左右されますが、一例を以下に記載しておきます。
・会社の規模
・連結子会社・持分法適用会社の数
・海外展開の程度
・業種
・社内で有するIFRSの知識あるいは導入経験者の数
・プロジェクト関与者の数
・外部専門家の関与程度および過去導入実績
・担当監査法人(チーム)のIFRS監査経験

プロジェクトのスタートからIFRS報告日までの期間としては、上記にあげた要因を総合的に考慮し、負担が軽めの会社でも1年半、負担が重めの会社では3年程度は少なくとも欲しいというのが、私の立場からのホンネです(なお、監査法人がこの期間で対応可能と了承するかは別問題だという点はご留意ください)。