日本公認会計士協会が、「IASB公開草案「中小企業向け国際財務報告基準第3版」 に対する意見について」を掲載しました

日本公認会計士協会は3月10日、IASB公開草案「中小企業向けIFRS会計基準第3版」に対する意見を提出した旨を公表しました。

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公開草案の各質問項目について日本公認会計士協会の回答が記載されているわけですが、まず日本公認会計士協会が中小企業向けIFRS会計基準の見直しに向けたIASBの継続的な取り組みに対してどのような見解を有しているかを、今回の公表内容から一部抜粋しておきます(太字は筆者が加筆)。

中小企業に過度の費用又は労力を負わせることなく、財務諸表利用者により良い情報を提供する観点から、中小企業向けIFRS会計基準を完全版IFRS会計基準に揃えるべきか否か、またその方法を検討することは不可欠であるため、我々は中小企業向けIFRS会計基準の包括的な見直しに向けたIASBの取組を支持する。
また、我々は、基本的な方針として、中小企業向けIFRS基準を完全版IFRS会計基準と整合させることを支持する。しかし、中小企業との目的適合性と簡潔性の観点から、認識及び測定に関して実務に配慮した簡便法を認め、複雑な規定については、より平易な規定とすることを検討すべきと考える。

このように、日本公認会計士協会の考えとして、中小企業向けIFRS基準を完全版IFRS会計基準と整合させることを支持しており、とはいえ中小企業という観点から簡便法を認めてなるべく平易な規定とする方針であることが読み取れます。

今回の各質問項目に対する回答も、基本的にはそのような前提に基づいて日本公認会計士協会の考えが述べられているように感じました。

例えば、金融資産の減損に関する改訂案について、IASBは「顧客との契約から生じる収益」の範囲内で売上債権と契約資産に発生損失モデルを維持するとともに、償却原価で測定される全てのその他の金融資産に対して、IFRS第9号の簡便なアプローチに沿った予想信用損失モデルを要求しています。

これに対し、日本公認会計士協会の回答としては、売上債権と契約資産に発生損失モデルを維持し、償却原価で測定する全ての他の金融資産に予想信用損失モデルを要求する提案は現行IFRS第9号とは異なるアプローチであり、複雑性が増すことになる。むしろ簡素化の観点から、予想信用損失モデルと発生損失モデルのいずれかの選択肢を提供する方が容易であるとして、両者の選択適用を認めてはどうかという提案を行っています。

この点、「IFRS第9号は基本的に予想信用損失モデルを採用していることから、日本公認会計士協会の回答もIFRS第9号とは異なるアプローチなのではないか」と思う気持ちはあるものの、私としては中小企業向けでは比較可能性よりも簡素化の観点を重視すべきだと考えていますので、いずれかの選択肢を提供する日本公認会計士協会の方針のほうが望ましいかなと思っています。

その一方、IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」で「履行義務」の代わりに「約束」という言葉を用いるというIASBの方針に対して、日本公認会計士協会は同意していません。「履行義務」は収益認識基準の重要な概念であり、意図する内容がIFRS第15号と同じであれば用語を整合させるべきであり、一般的な用語の「約束」に変更することでかえって利害関係者を混乱させることになるとしています。

日本公認会計士協会としてはなるべく平易な規定とする方針と言いながらも、「履行義務」という言葉を「約束」という平易な言葉に置き換えるというIASBの見解は認めたくないようです笑

まぁ、私も「約束」でいいなら、完全版IFRSでも「履行義務」なんて聞き慣れない単語じゃなくて「約束」でええやないかい!と思いますし、なによりIFRS第15号のキーワードの一つが「約束」だとなんだかピリッとしませんねぇ。

むしろ、それなら上述の「予想信用損失モデル」って言葉のほうが中小企業にとっては「ちょっと何言ってるのかわからない」だと思ってしまいます。。。

今回の日本公認会計士協会の回答を受けて、中小企業向けIFRS基準がどのように変わっていくのか、そして「履行義務」という言葉が「約束」に変わるのか、引き続き注視していきたいと思います。