2026年6月26日、株式会社アドバンテストが、有価証券報告書と会社法上の事業報告・計算書類を1つにまとめた「有価証券報告書兼事業報告書」を日本で初めて公表しました。また、会社法上の記載事項が有報のどこに対応するかを示す「対応表」も公開されています。
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背景には、有価証券報告書を株主総会前に開示しようとする流れがあります。
2025年3月、金融担当大臣から全上場会社に対し、有報の提出は株主総会の3週間以上前が望ましいとする要請が出されたことは、その際の投稿「金融担当大臣から全上場企業に対し、有価証券報告書の提出前倒しを要請へ」で記載しました。
早期開示を実現するうえで、2つの書類を1つに統合する一体開示は、作成・監査の負担を軽減する有力な手段として注目されてきたという経緯があります。
今回の「有価証券報告書兼事業報告書」は、今後自社で同様の開示を行おうとしている皆さまの最終ゴールのイメージとして非常に有用だと思います。そして、あわせて公表された「対応表」は、会社法に基づく記載事項が、一体書類のどこに記載されているかを示すナビゲーションとしてぜひ目を通してもらいたい資料となっています。
私が今回の対応表を読んで、特に実務担当者の皆さまに共有しておきたい点を5つ、以下に整理しておきます。
1. 有報をベースに会社法固有の記載を紐づけ
対応表の冒頭に、「連結計算書類は会社計算規則第120条第1項(前段)に基づき、国際会計基準(IFRS)に準拠して作成されており、有報の連結財務諸表に関する記載と同等の内容のため、対応表では連結部分の記載が割愛されている」旨の記載があります。
また対応表の構成からも、アドバンテストが公表した一体書類は、有報の様式や構成をベースとして、そこに会社法固有の記載を紐づけていくという設計思想で作られているように読み取れます。
2. 事業報告等と有報の丁寧なマッピング業務
事業報告には、有報には直接的に存在しない、あるいは整理が異なる記載項目があります。対応表を見ると、これらが有報の各項目へ丁寧にマッピングされていることが読み取れます。
例えば、
・事業報告の「主要な借入先の状況」→ 有報の「経営者による財政状態・経営成績及びCFの状況の分析」に記載
・事業報告の「責任限定契約・補償契約・役員等賠償責任保険契約の概要」→ 有報の「コーポレート・ガバナンスの概要」に記載
・事業報告の「業務の適正を確保するための体制(内部統制システム)の運用状況」→ 有報の「企業統治に関するその他の事項」に記載
会社法と金商法では、同じ事柄でも見出しや配置が異なるため、自社で検討する際、「事業報告等の記載事項を、有報のどこに、どう吸収させるか」のマッピング作業が、重要な業務となります。事業報告に記載されていた内容が、漏れなく一体開示上でも記載されているか。ここは専門的な判断を要するところです。
3. 効率化の具体的なイメージ
対応表の後半(計算書類のパート)を見ると、個別注記表の各注記(重要な会計方針、会計上の見積り、税効果会計、関連当事者、収益認識、後発事象など)が、有報の注記事項にきれいに対応づけられています。
会社法の個別注記表と金商法の財務諸表注記が、内容的にかなり重複しているという事実がここからも分かると思います。これまでの決算実務で、同じ内容を様式違いで二度書くという負担を感じていた担当者にとって、効率化の方向性が具体的にイメージできるはずです。
4. スケジュールの前倒しへの耐性と設計
一体開示では、株主総会前に完成・監査を終える事業報告等と1つにまとめるため、有報の作成・監査が総会前へと引き上げられます。つまり、全体のスケジュールが現行実務より前倒しになるのが通常です。ここで注意が必要なのが議決権行使基準日です。基準日から3か月以内に総会を開く必要があるため、3月決算で基準日を決算日(3月末)のままにすると、総会を6月末までに開催しなければならず、決算日からの逆算で作成・監査の日程が窮屈になりがちです。基準日の変更や総会日程の後ろ倒しを含めた設計を併せて考える必要があります。
今回のアドバンテストのケースでは、議決権行使基準日が5月15日、有価証券報告書提出予定日が6月26日、定時株主総会開催予定日が7月31日となっており、基準日から3か月以内の総会開催、かつ、有報提出から総会までは約5週間で、「株主総会から3週間以上前の有報開示」という要請を十分に満たす総会前開示となっています。
一体開示だけでなく、スケジュール設計についても参考になる模範的な事例といえるのではないでしょうか。
5. 監査法人・監査役等との合意形成
一体として開示はなされるものの、監査は2本立ての建付けが残ります。つまり、会計監査人の監査意見は一体書類に対して表明されますが、会社法と金商法それぞれの枠組みに基づく財務報告に対し、それぞれ監査意見が表明されることになります。そのため、監査報告書の様式や監査役等の関与範囲について、関係者間の事前合意を行うことが求められます。
今回アドバンテストが第一号で開示した「有価証券報告書兼事業報告書」は、一体開示に初めて実例と実務的なフォーマットを与え、具体レベルにまで落とし込んだという点で、日本の開示実務の大きな変革となり得る出来事だと思います。
開示の要求事項の増加に伴って、開示ボリュームが増加傾向にある昨今において、このような実務負担の軽減に繋がるアクションは、多くの上場企業にとって前向きに検討する価値のある取り組みではないでしょうか。

