融資時の「経営者保証」を制限する方向で見直しへ

本日の日本経済新聞朝刊に、中小企業向け融資の際に金融機関に説明義務を課すことで、経営者保証を制限し、起業を促す旨の記事が掲載されています(以下、日本経済新聞より一部抜粋。太字は筆者)

中小企業向け融資で経営者が個人で背負う「経営者保証」の慣行が見直される。金融庁が1日発表した監督指針改正案は金融機関に対し、経営者個人に信用保証を負ってもらう場合は具体的な理由を説明するよう義務付ける内容で、事実上、制限を加える規制だ。国が融資慣行にメスを入れるのは、スタートアップ企業が増えない危機感がある。
(中略)金融庁の監督指針改正案は、経営者個人が負う「経営者保証」を23年4月から事実上制限する規制だ。21年度の中小向け新規融資に占める経営者保証の割合は民間金融機関全体で約7割に上る
改正案は金融機関に対し説明義務を課す内容。金融機関は理由を説明したことを記録し金融庁に報告しなければならず、経営者保証を求める手続きは煩雑になる。

まずそもそも論ですが、株式会社の仕組みとして、株主は本来自分の出資した金額の範囲内でしか責任を負わない、いわゆる株主有限責任が原則とされています。

しかし実務上は、金融機関から融資を受ける際に経営者の連帯保証を求められるケースが多く、仮に会社が返済できない場合には、経営者が会社に代わって返済義務を負うことになります。

なんのための有限責任やねん!っちゅうことですね。

この個人保証を恐れて起業に踏み切れない人も少なからず存在することから、金融機関に金融庁への報告義務を課すことで経営者保証を制限し、起業の機会を増やそうというのが今回の見直しの趣旨になります。

私は毎年数十名の経営者の方々とお会いして話を聞いていますが、肌感覚としても経営者が連帯保証人となっているほうが圧倒的に多いという印象を受けます。

そのため、経営者保証が不要なケースが増えれば、起業数も比例して増加する可能性は十分にあると思います。

また、個人的には今回の見直しにより、事業承継における後継者の心理的ハードルを軽減する効果もあるのではないかと考えています。

事業承継の支援をしていると、後継者から「会社の事業を引き継ぎたいが、連帯保証人の地位まで引き継がないといけないのが悩ましい」という声をよく聞きます。

たしかに、いままで従業員として働いていた後継予定者が経営者となるだけでも大変なのに、数千万円や数億円の借入の連帯保証人になる必要があると言われたら、いくら会社の業績や財務状況が良好でも一歩踏み出せないというのはもっともな話でしょう。

それでも、仮に後継者本人は納得したとします。しかし、後継者には30代や40代の方も多く、まだまだ義務教育や育児にお金のかかる子どもを抱えている。そんな状態で連帯保証人になるということについて、家族の同意が得られないというケースも多いのです。

この点、経営者保証が不要となるだけでも、後継者は周囲の同意のもと、経営者となることについてより前向きに検討できるのではないでしょうか。

現在の日本においては事業承継、特に後継者不足の解消が喫緊の課題となっています。

今回の見直しは起業のみならず事業承継においても一定も効果があるものと、個人的には期待しています。