「収益認識に関する会計基準」を適用する際に意識してほしい6つのこと

収益認識基準の適用時期が迫ってきたからなのか、最近は経理担当者や同業の会計士から、基準の内容はもちろん、導入の進め方や監査法人対応などの質問を受ける機会がかなり増えてきた印象があります。

この点、日本基準での収益認識基準の適用はこれから本格化するため、現状では他社の参考事例や実務経験者が少なく導入に苦労しているという声を多く耳にします。また、コロナの影響で出社が制限されており、なかなか思うようにプロジェクトが進まないという方もいらっしゃるでしょう。

そこで、皆さまの参考になればということで(何度も同じ質問を受けるので、私の負担軽減のためにも笑)、収益認識基準の適用支援の際に意識してほしい6つのことを以下に記載しておきます。

1.重要性
IFRS導入時には、私は会社の担当者に「「重要性」って書いて机に貼っといてください」と伝えるくらい収益認識基準の適用時にも意識してほしい言葉なのですが、すべての契約・取引について収益認識基準を厳密に適用していたのでは、とてもじゃないけど時間や人員が足りません。
収益認識基準を自社の管理会計にも上手く組み込み、かつ担当者の作業負担をなるべく軽減させるためには、この「重要性」という考えが非常に重要になります。重要性が低い論点は検討省略する、重要性等に関する代替的な取扱いを採用するなど、自社ではどのような重要性の基準に沿って検討や判断を行っていくのかを決めておくことが望ましいと思います。

2.各種システムの改修・見直し
収益認識基準を適用すると、売上取引に係る契約価格、売上金額、債権金額のそれぞれが一致しないケースや、出荷日に加えて着荷日や検収日の情報が追加的に必要となるケースが生じることがあります。このような状況に対応できるよう、基準の導入と並行して会計システムや債権管理システムの改修および見直しを検討することが求められます。

3.KPIの再考
収益が総額から純額計上へ変更される場合、あるいは従来は売上高として認識していた金額の一部が負債として計上される場合など、基準の適用によって従来よりも売上高が減少するケースが多く見られます。また、売上高自体はもちろん、売上高を基準とした各種利益率・回転率などの指標が大きく変動する可能性があり、これらの影響によって従業員の人事面での評価結果が大幅に変わってしまう可能性があります。
そのため、KPIの再考を検討するとともに、投資家への説明および社内人事評価などの面で理解・啓蒙を行うことが求められます。

4.社内ルールや各種規程類の作成・更新
収益認識基準は一般的かつ抽象的な記載が多いことから、従来よりも自社の規模や事業内容等に照らした判断や意思決定が求められる場面が多くなります。
そのため、自社のケースに落とし込んだ社内ルールや規程類の作成・更新といった各種整備が求められます。また、契約書の見直しを行う場合は、自社のみならず相手先との関係に配慮する必要がありますので、慎重な対応が求められます。

5.監査法人とのコミュニケーションの強化
自社の最終的な会計方針は、監査法人との協議から承認を経て決定されるため、従来にも増して監査法人との円滑なコミュニケーションが可能な体制の構築が望まれます。特に、現状はコロナの影響で対面での打ち合わせの機会を確保することが難しい傾向にありますので、打ち合わせの日程調整など余裕を持った対応を心掛けることをお勧めします。

6.外部専門家との連携
特に人員やノウハウなどの社内リソースが不足している場合には、外部の専門家に導入支援を依頼するケースが一般的だと思われます。その場合、支援を依頼する範囲(プロジェクトの陣頭指揮だけか、あるいは手を動かす作業まで含めるのか。子会社等を抱えている場合は、子会社等への導入支援も一緒にお願いするのかなど)をあらかじめ検討しておく必要があります。
また、依頼後は役割の分担や他社事例の共有などの点も含めて、分からないことをタイムリーに質問できるような円滑な連携を取れる体制を構築することが望ましいでしょう。

一般的に収益認識基準の適用と言われると、5STEPの検討や開示面などに意識が向きがちです。

しかし、適用までのプロセスが手戻りや滞りなく順調に進むかどうかは、むしろ上述の点を念頭にプロジェクトを進めているかに左右されると言っても言い過ぎではないと思います。

特に、収益認識基準の適用時期に追われるがあまり、KPIの再考や規程類の更新などが後回しにされる傾向があります。しかし、これらは社内や社外との調整を要することも多く、想定以上に時間がかかることを忘れてはいけません。

上述の点を意識することで、少しでも担当者の皆さまの負担やストレスが軽減され、プロジェクトが順調に進めば嬉しく思います。

なお、収益認識基準の適用までの流れは会社によって様々です。そのため、投稿では一般的な記載に留めている部分もありますので、個別にご相談をしたいという方はお気軽にお問い合わせください。