上場企業の減損金額が8年ぶりの高水準となった理由

本日の日本経済新聞朝刊で、上場企業が2020年4月~9月期決算で計上した減損金額が7430億円となり、8年ぶりの高水準となった旨の記事が掲載されていました。

新型コロナウイルスの長期化による航空機需要の低迷などの影響が大きかったということで、主な減損を行った企業(以下、カッコ内は減損金額)として、住友商事(820億円)、東レ(256億円)、日立金属(245億円)、ヤマダHD(119億円)、ハウス食品G(92億円)、日本郵船(83億円)、キッコーマン(11億円)が挙げられています。

たしかに減損金額が高水準となった理由は、私も新型コロナウイルスの影響によるところが大きいと思います。

加えて、今回の記事では触れられていませんが、各企業が採用している会計基準の影響も少なからずあるのではないでしょうか。

つまり、上記列挙された企業のなかでは、住友商事、東レ、日立金属の3社はIFRS適用企業です。

結論から述べると、この度のように急激な経営環境や業績の悪化が生じた際には、日本基準よりもIFRSを適用している場合のほうが減損金額が大きくなる傾向にあります

その理由として、減損判定のプロセスに違いがあり、日本基準では2段階アプローチ(減損の兆候が存在する場合に、資産の帳簿価額が割引前キャッシュ・フローの総額より大きく回収不能と判断された場合は、資産の帳簿価額を回収可能価額まで減額し、減損損失を認識する)を採用しています。
一方、IFRSでは1段階アプローチ(減損の兆候が存在する場合に、資産の帳簿価額が回収可能価額を上回る場合は差額を減損損失として認識する)を採用しています。

そのため、日本基準よりもIFRSの方が割引前キャッシュ・フローとの比較がない分、減損と判定される機会が多く、減損金額が大きくなりやすいという傾向があります。

上記のIFRS適用3社が、仮に日本基準だとどのくらいの減損金額だったのかは不明ですが、IFRSを適用していたことで減損金額が大きくなったという可能性は否定できません。

もっとも、今後の経営環境の改善などで過年度に認識した減損が存在しないか減少している場合に、日本基準では減損の戻入は認められていませんが、IFRSでは減損の戻入という会計処理があります(ただし、のれんは除く)。

そのため、今回減損を計上したIFRS適用企業について、今後コロナの収束に伴って、状況次第では減損金額の戻入が行われる可能性もあるのではないかと思っています。

(12月4日追記:上記投稿で取り上げた日本経済新聞の同記事の後半に「コロナで事業環境の先行きが不透明として、金融庁や日本公認会計士協会は4月、企業や監査法人に減損の先送りを含めた弾力的な運用を認めていた」という記載がありました。
個人的には「これホンマかいな!?」と思ってましたので、投稿では触れませんでした。
この点、日本公認会計士協会から上記報道の内容に対して、「「4月、企業や監査法人に減損の先送りを含めた弾力的な運用を認めていた」という事実はなく、当協会から発したものではありません。 」というコメントが発表されています。詳細はこちらから。)
でしょうねぇ。。。