その開示資料は価値を生み出しているか?

今回は、これまでに開示資料のチェックや作成支援を行ってきた立場からの私見を少し。

日本経済新聞は8月24日、「東証マザーズ市場に上場する日本電解株式会社の情報開示の時間差」が話題になった旨を報じています。

その内容は、四半期報告書が決算短信よりも20分早く開示されたというものです。

「それが何か問題でも?」

まず期末決算では有価証券報告書の開示が3ヶ月以内と定められていることから、東証は短信の公表について早期化の要請を出しており、遅くとも決算期末後45日以内に開示を行うことが適当だとしています。

そのため、期末決算では決算後45日以内にまず短信が出され、その後に有価証券報告書が提出されるという流れが一般的です。

一方、四半期決算では四半期報告書の法定提出期限が45日とされていることを踏まえ、短信の公表について早期化の要請を出していません。

とはいえ、速報的な位置付けである短信を、確報的な位置付けである四半期報告書より遅くだすことは通常考えにくいため、結果として四半期決算では短信が四半期報告書よりも早くあるいは同時に出されることが慣行的となっています。

にもかかわらず、今回は四半期報告書が先に開示されたよというのが話題の内容でして、とはいえ今回の日本電解株式会社のように、短信より四半期報告書が先に公表されたということ自体は特に法令に反するものでもなく、今後も同様のケースが起こっても何ら不思議ではないと思われます。

むしろ、ここからが私見というか、上記の記事を踏まえて個人的に思うことは、そもそも四半期において短信と四半期報告書を別々に作成する意味があるのかということです。

短信と四半期報告書はともに財務情報に重点が置かれた開示内容となっており、重複している箇所が多くあります。

また、短信は監査やレビューの対象外となっているものの、実務では監査人が開示前に目を通していることも多く、そうなるとますます短信と四半期報告書を別々に作成・開示する意味が薄れてしまうと思います。

むしろ、経理担当者や監査人の負担が増えるだけではないでしょうか。

私自身も監査法人勤務時代は開示書類のチェックを行ってきましたし、独立してからも複数の会社で開示書類の作成支援を行っています。

このような経験をしてきた立場から、私としては開示という観点で以下のような改善が考えられると思っています。

四半期については、短信と四半期報告書を一体的に開示することはできないか(四半期決算自体がスピードを重視しているため、両者を分けず一体的に開示する余地があるのではないか。両方の資料を別々に作成することが、逆にスピード重視を阻害していないか)
そもそも四半期決算自体を廃止して、従来のような半期決算に戻してはどうか(あるいは四半期については企業の自主的な開示に留めることも一つの方法ではないか)
金融商品取引法と会社法における作成・開示書類を一体化できないか

開示書類の作成支援をしていて、そのたびに思うのは、同じ情報を異なる形式で作成・開示することに本当に意味があるのか、そこから何か新たな価値が生み出され提供されているのかということです。

実際に短信、有価証券報告書、事業報告等といった作成書類には、定量面と定性面いずれも重複する部分が数多く見られます。また、四半期決算が始まって以降は年に4回、つまり3ヶ月に1度は開示書類を作成することが求められています。

おそらく上場企業の経理担当者は、有価証券報告書の作成がやっと終わったと息つく暇もなく、その数日後にはもう四半期決算の準備が始まっているという感覚ではないでしょうか。

投資家や利害関係者のために、開示資料が必要なことは否定しません。

しかし、今後はIFRSや収益認識基準などの新しい基準の適用が進むなかで、その会社独自の会計処理の検討や開示内容の充実がこれまで以上に求められてくるでしょう。

内容が重複する資料を簡略的あるいは一元的に開示することや、四半期決算自体を廃止するなどの検討をもっと積極的に行い、その簡略化等によって生まれた時間を、自社の価値の創出や提供に使うという方向に舵を切るべきだと、個人的には思っています。