【書籍のご案内】「決算・監査コストの最適化マニュアル」

ビジネスパートナーで親友でもある公認会計士武田雄治先生が共著で書籍を出版されたということで、関心のあった本書を読む機会に恵まれました。

「決算・監査コストの最適化マニュアル」(中央経済社)

上場企業等で監査を受けている立場の方々からすると、「監査報酬が高すぎないか」、「本当にその監査報酬は自社にとって妥当なのか」と一度は考えたことがあるのではないでしょうか。

実際に、私も監査法人を退社後に10年以上にわたって上場企業へのコンサルティングを行ってきたなかで、これまでに数え切れないほど監査法人や監査報酬について相談を受けてきました。

監査法人による監査業務が経理部の目の届かない、いわば「密室」で行われているため、本当に監査で求められる工数や報酬が自社にとって妥当な水準なのか疑問に感じている方が多いということなのでしょう。

加えて、著者のいう近年の日本基準の「IFRS化」に伴い、監査の現場でも従来以上に解釈や判断の余地が大きくなっている状況からは、今後ますます監査工数や監査コストの増加傾向に拍車がかかる可能性は高いと思われます。

では監査工数の妥当性に疑問を抱えつつも、監査報酬の値上げ要求を甘んじて受け入れざるをえないのか。

この点、筆者の答えは「NO」です。

監査報酬が高い原因は様々あるものの、主たる要因の一つは会社側にある可能性があり、その場合、会社側の対応次第で決算・監査対応は楽になり、コストは安くなると言います(第1章)。

つまり、会社の現状の内部統制を変えること(第6章から第8章)、および業務の縦割りの解消や決算資料の整理・見直しを行うこと(第5章)といった会社側で対応できる改善を行うことで、監査手続を効率化・省力化させることができ、その結果、監査報酬の削減につながるということです。

そして、この監査報酬の決定根拠となる監査工数がどのように決まるのかについても、本書では丁寧に説明してくれています(第2章)。会計士であれば知っていて当然の内容かもしれませんが、経理担当者など監査を受ける立場の方々も、監査工数が増加・減少する要因は何かを知っておくことで、自社の監査報酬が妥当かどうかの判断に役立つのではないでしょうか。

これまでも上場企業の監査報酬がどの程度かについて調査した報告書はありますが、このように内部統制を変えるなど会社側の行動を具体的に示すことで、監査コストの最適化につなげるという視点から記された書籍はなかったと思います(業務の縦割り解消や決算資料の見直しから決算早期化につなげて監査コストを削減するという目線は、本書に加えて武田先生の決算早期化に関する書籍にさらに詳しく書かれています)。

まさに、内部統制に精通された浅野雅文先生と、決算早期化の第一人者と称される武田雄治先生がタッグを組んだからこそ出版につながった一冊だと思います。

本書で想定読者とされている経理担当者やCFO、内部統制担当者だけではなく、会計監査に携わる専門家や監査役の方々もぜひ参考にされてみてはいかがでしょうか。