「のれん非償却のメリットだけをつまみ食いするのは虫が良すぎる」

ここ数日、のれん償却に関する議論が新聞を賑わせていますね。

スタートアップ経営者や政府の規制改革推進会議などから、現状ののれん償却処理について検討するよう声が上がり、5月30日には民間13団体などが非償却の処理を選べるようにすることを財務会計基準機構(FASF)に提案しています。

「のれんの償却処理が非償却になれば、利益が増加するだけでなく、償却の仕訳処理も不要となるので実務上の負担が軽減されて良いことだらけだ」と、勘違いをされている方々もいるようなので、ここで明記しておきます。

仮にのれん非償却に変更された場合、当初ののれん計上額がその後なにも処理されないまま貸借対照表に計上され続けるわけではありません。

今朝の日本経済新聞にある「「のれん」非償却が問う覚悟」という記事のなかで、青山学院大学の鶯地隆継特任教授が述べられている以下の文章は、私も強調しておきたいと思います。

「償却ルールを再検討するのは賛成だが、非償却のメリットだけをつまみ食いするのは虫が良すぎる。他の要素とあわせた検討が必要だ」

これは、のれんを非償却とする場合には、減損テストの実施などについてもセットで検討されなければならないということです。

この点もう少し述べておくと、現行の日本基準ではのれんは、20年以内のその効果が及ぶ期間にわたって規則的に償却を行った上で、減損の兆候がある場合には、別途、減損テストを実施することになっています。

一方のIFRS(国際財務報告基準)では、のれんについて規則的な償却は行わないが、減損の兆候が無くても毎期1回、減損の兆候がある場合には追加で、減損テストを行うこととされています。

IFRSと同様にのれんを非償却とするということは、減損の兆候が無くても毎期1回は減損テストを行わなければならず、そのためのコストや工数、詳細な開示といった負担を企業は抱えることになるという点は忘れてはなりません。