中小の私的整理に新指針、仲介役の選択肢を増やし迅速な再生へ

昨日の日本経済新聞朝刊に、中小の私的整理に新指針として、来春を目処に中小企業の再生手続きを定める新しい指針づくりの議論を開始するという内容の記事が掲載されています(以下、日本経済新聞朝刊より一部抜粋)。

新型コロナウイルス禍で経営が傷んだ中小企業の再生を後押しする枠組みが動き出す。全国銀行協会は弁護士や公認会計士らが「行司役」となり、返済の猶予や借り入れの減免など債務整理の前提となる再生計画づくりや妥当性を評価するしくみをつくる。現在は公的機関が担っているが、コロナ禍で苦境に陥る企業は急増している。支援のパイプを太くし、迅速な再生につなげる。

この私的整理では、民事再生法などの法的整理とは異なり、金融機関との協議によって企業の債務を整理することになります。

現在は中小企業再生支援協議会(以下、「支援協」という」が仲介役として取りまとめを行っていますが、コロナなどによる経営不振に起因して2020年度の支援協への相談件数は、2019年度の2.5倍に急増しているとのこと。

そのため、支援協による仲介以外の私的再生の道を切り開くことで、急増した経営不振企業の私的再生に対応する意図があるのだと思われます。

たしかに複数の仲介役を準備しておくことは、再生への可能性が高まるという点で企業や金融機関にとってメリットはあるでしょう。

一方で、ひとつの企業に融資する金融機関の数が5行や10行というように多くなればなるほど、支援協の仲介役としての立場が重要なものになってきます。

もっと言えば、このような金融機関の数の多い私的整理では、金融機関それぞれに経済合理性に基づいた考えがあることから、支援協のような仲介役がいないと取りまとめが困難だというのが、これまで実際に支援協から依頼を受けて再生企業の調査(いわゆるデューデリジェンス業務)を行ってきた私の見解です。

そういった異なる考えや意見をどのように取りまとめるのかというのは、教科書的なものに加えて、経験の積み重ねによる部分が非常に大きいと感じています。

これまでは、弁護士や公認会計士が中小企業の私的整理に関与する際には、支援協から依頼を受けて調査を行う側や調査を受けて計画の策定、実行支援という立場が多かったと思います。

私自身もそのような立場から、支援協の方々の仲介役としての役割や手法をこれまで何度も見てきましたが、実際に仲介を行う立場ではまた異なるノウハウや経験が求められると思います。

個人的には、今回の記事にある新しい指針づくりを始めることと並行して、弁護士や公認会計士が仲介役として実際に現場に出る前に、仲介役として必要なノウハウや経験を積み重ねることができる機会や場を設けること(例えば、支援協主催でセミナーを行う、仲介役のメンバーに支援協での実務経験者を含めるなど)も、私的整理の実効性を確保するために検討すべきではないでしょうか。