本当の成功に導く「事業承継」の考え方とは?

先日も1社、とある中小企業の事業承継相談に乗ってきました。

私は東京商工会議所のビジネスサポートデスクで、財務会計を主とした窓口相談員をしていることもあり、事業承継の相談を受ける機会は多い方だと思います。

一言で事業承継といっても、親族内の承継や親族外への承継、M&Aなど複数の方法があります。

このうち、親族内承継や親族外の従業員への承継を考えている経営者から話を聞くと、後継者がすでに自社の従業員として働いていることから、自分が引退するタイミングで後継者を代表取締役にしようと考えている方が多いことに驚きます。

後継者がすでに自社で何年も勤務しているため、事業内容の理解や従業員との人間関係は十分だと考えているのかもしれません。

しかし、経営者と従業員では求められる能力がまったく異なります

従業員は、技術力や営業力といった実務ノウハウ中心のスキルが求められます。一方、経営者の場合、株主総会や取締役会といった合議体の運営、金融機関への融資依頼や業績の報告、組織体制の改変・構築、予算実績管理といった経営面のスキルが必要となります。

このようなマネジメント能力は、従業員の立場で容易に身につくものではなく、経営的立場の経験を通して徐々に身についていくものです。

そのため、私がオススメしているのは、承継の準備段階として後継者が(代表権のない)取締役に就任し、3年程度は経営的な仕事を経営者の間近で経験するということです。

マネジメントの経験を3年程度積むと、経営者の行動サイクルが分かってきます。株主総会や取締役会の開催時期や手続き、金融機関への決算報告タイミングや融資を受けるための事前準備、予算の策定方法、自社の売上の季節的変動など身を持って経験することで理解が進んでいくでしょう。

会社によっては、子会社を設立したり小規模なプロジェクトを立ち上げて、そのマネジメントを後継者に任せることで、後継者に実際の経営というものを体験してもらうこともオススメしています。

そのような経験を積むことで後継者のマネジメント能力が向上し、経営者に就任する際の重圧を大幅に軽減させた事業承継が可能となります。

もっとも、後継者が取締役として経験を積んだとはいえ、代表取締役として会社のトップに立つわけですから、実務上様々な悩みやストレス、分からないことが生じてきます。

先代の経営者がいつでも後継者の相談に乗ってあげられる関係を構築しておき、1年から3年程度は後継者を支えてあげてはいかがでしょうか。

このあいだに、先代経営者が長年の会社経営で蓄積してきたノウハウを後継者に伝えていくこともできます(ただし、後継者に事業を承継した以上、先代経営者が事業に口を出しすぎるのは考えものです)。

後継者への株式移転や役員登記の変更のような形式的な事業承継も、もちろん大事です。いかに納税額を抑えて株式を後継者に移すかを最重要視している経営者も多いでしょう。

しかし、事業承継後も事業を順調に成長させるという本来の目標を実現させるためには、上述のような実態の伴った事業承継を行うことが最も大事なことだと思っています。