とある会社の原価管理の導入に関与し始めたのが3年前。
当時その会社には原価管理の仕組みが一切なく、売上が伸びても利益はマイナスのままで、その原因を誰も把握できない。相手先や受注内容ごとの利益額や利益率も分かっていない。
言わば「(頼りない)感覚」と「(裏付けのない)経験」のみに頼った経営でした。
社長も原価管理の必要性は理解されていたようです。
しかし、社内に原価管理に詳しい人材は不在で、また受注内容も多岐かつ複雑なため仕組みを構築できる専門家も見つからず、そこで、私が原価管理の仕組みを構築・導入する支援を行うことになりました。
原価管理と一言でいっても、その仕組みを導入することは容易ではありません。
当時その会社は業績が芳しいとは言えず、人員も資金も余裕のない状態のなか、私は「会社の既存の資料をベースとして担当者の作業負担を減らす一方で、実用性のある効果的な原価管理の仕組みを導入する」という、相反する目的を同時に達成することを目標に定めました。
そして、そのゴールに向かって、ヒアリングしては仕組みを構築するというサイクルを繰り返しながら、約半年をかけてフォーマットを作成しました。
この点、教科書的に作成したフォーマットを会社に導入し、担当者に入力方法を教えて原価管理を行うという方法もあると思います。
しかし、断言します。
それでは上手くいかないんです。
世の中にまったく同じ会社など存在しません。社歴や文化、事業内容も違えば、使用している資料やシステムも違う。会社担当者の経験や知識、従業員数や会社の資金力までバラバラです。
そのため、専門家が一人で机に向かって独自に作成したフォーマットを落とし込むトップダウン型のアプローチでは、会社の実情に即せず、過度な負担を生じさせてしまいます。
原価管理は経営者や担当者と何度も膝を突き合わせ、現場に適合した仕組みを作り上げるというボトムアップ型で行う必要があるのです。
このように、原価管理のポイントは、「個々の会社の現状や特性に適合した仕組みを、運用まで意識して構築できるか」だと私は考えています。
この会社も初めての取り組みで、導入当初は半信半疑だったと思いますが、社長や従業員の皆さんも私からの助言を真剣に聞いて行動してくれました。
運用開始後も毎月ヒアリングと報告会を重ね、改善を繰り返してきました。
原価管理導入により従業員にも作業時間を意識した業務の実施という考えが浸透し始めるという効果も生まれ、受注量が拡大した際にも残業時間をほとんど増やすことなくを業務をこなしてくれました。
そして今月、原価管理の導入から3年が経ちました。
売上高伸長の助言も並行して実施させていただいたこともあり、3年前と比較して、売上高は1.8倍、営業利益率や経常利益率は当初マイナスでしたが、今は同業他社の平均を大きく上回る水準にまで成長しました。
何より社長をはじめ、従業員の皆さんも大変明るい表情で業務に励んでくれています。
自社の原価管理は会社の現状や特性に適合した仕組みになっているか、導入後の運用や改善まで意識して構築されているかという点を再度問いかけてみてください。
そのうえで、有効かつ効率的な原価管理を行っていただきたいと思います。